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第六十六回短歌研究新人賞最終選考通過作

銀色のギターケースをかつぐひと樹のたましいは月面にある 風呂という海をあごまでもちあげる『夜間飛行』の栞は髪だ てのひらのくぼむかたちは三日月が地のすれすれにあった名残りだ なんとなくえがおの人を避けているえがおはひとを責めたてる顔 ひとりでは広すぎるから夏空のここより先は君の言語野 スープから熱の引くのを待っている湖を立つ鳥を思って にぎったら洗ってすぐの手であった清潔だけど体温じゃない 昼寝したつもりになっていたけれど海は少しも動いていない 音もなく日付は変わる牛乳は飲めない白い液体となる だんだんと風の長さがわからなくなりお別れのことばを言った

第9回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞作 短歌「誤配」他

短歌連作「 誤配 」( 詩客 ) 【抜粋】 泳ぎたい鳥と飛びたい魚いて誰かと話したいヒトがいる

第五回笹井宏之賞最終選考候補作「太陽、三割引き」

中古車を解体したらエンジンに金魚が眠る 目はないけれど 廃炉から鴉が白くなるまでの虹のこととか影のこととか デモ隊の君のあとから君が来る太陽だって少しは動く 雲ひとつ動かないとか告げられて喪服の人がみんな見上げる 駅員は夜からぼくをひっぺがし赤い光をまとえと言った 親指は切りはなしてもすぐ戻る父だった人の好きな手品 あばら骨を動かし指で肺を押す こどものときの空気がぬける 海底に母がいるなら三色の蛍光ペンを波間に置こう 耳のさきすこし尖ってきたような最近石の声が多くて 音だけじゃ撃たれたものは分からない太陽はもうコンビニにある

第六十五回短歌研究新人賞最終選考通過作

店頭の除菌スプレー中身ではなく習慣へ両手をさらす 液晶へ夕焼け映し夕焼の画像を祖母と思って握る アイドルの生写真買う写真より生という語を愛したゆえに バス来るを疑いだした三人のバス待ち人は波を待ちだす プレゼント包装として葉を添える干からびていてかさかさ鳴る葉 薬局で買うパン・お菓子・ジュースならからだが軽くなっていくかも 電話機の中身をぶちまけたような夜を走ろう声のはてまで 一斤の高級だった食パンの奥深くより獣の臭い 見たときは午後二時だった時計いまごまかすように五分進んだ さざんかの散るたび海は広がって静かな夜の裾を湿らす

第六十四回短歌研究新人賞予選通過作

シャツにつく抹茶アイスの緑色 海から雨のはじまっている 陸上で生きるヒトではないぼくはうまく呼吸を続けられない