甲太郎歌帖

秋空の病院待ちの長椅子のかぎ針編みの指のマニキュア

あたまではわかっているけどからだにはわかるということなくて早稲の香

蜘蛛

履歴書を郵送天の川を踏み

石を投げ前世の俺を押しつぶす

ハルキストの店主はときどき山羊の目で果汁のように珈琲を言う

（戦争）が（）のなかを出るときにまだ夕焼は目にしみますか

事件ですか事故ですかそれとも流れ星を追いかけてゆくのですか

珈琲のエレメントではコロンビアは風と知るときマコンドは消ゆ

（戦争）と思っていたら夕闇を浮かぶは脱ぎ捨てられた殻か

君来るなづきへ夏蝶の翅音

揺れるまえから揺れている鶏頭花

通勤快速の緊急停止ボタンを押すたったいま恋が実ったんです

こどもらの声から遠い暗がりに原爆と人間展を観る

熱帯夜のアートセンター暗がりへあなたはディオゲネスだと告げる

再配達の再配達の再配達の再配達のキムチ

老桜と化して部長の昼寝かな

避けていた人とはなぜかよく会う日

誰だろう円周率を求めるとからだにいいと気づけた人は

夕焼けをいくつも越えたまなざしで西の羊は珈琲を出す