甲太郎歌帖

夕焼けをいくつも越えたまなざしで西の羊は珈琲を出す 

夢のなかのわたしはわたしのままなのかはくもくれんのなかの生首（ 毎日新聞 ）

<audio src="裏声でうたう新古今.wav" autoplay>夕焼だけじゃ声にならない</audio>（ 毎日新聞 ）

さざんかや潮騒遠き精神科 

北を向く信号はみなひび割れて町を逃げ出す気は起こらない

散るように風に流され冬の蝶

日本海の色を見たくて西田幾多郎記念哲学館をおとなう

夜ということばを死語にするように銀杏黄葉は音立てて散る

絶対に自分は間違えていると信じる人の言葉は強い　（ 毎日新聞 ）

河はみな海へ注ぐと思う日の注いだあとの河はわたしだ　（ 毎日新聞 ）

アンケート□男□女にレを打てず紙はずらされ□犬にレと打つ

日本語の黒にあたる語百以上あると闇より来た君は言う

平社員であり続けるのはむつかしいちょっと気をぬきゃでこぼこ社員 

シオランと志ん朝を読む潮と汐ことばは衣をまとった魚（ 毎日新聞 ）

非正規と正規おなじにするために不利な方へと合わせる弊社

なんのためか知らずに入るレントゲン部屋の機械はかすかな翅音

ヒトののち花や星々うまれたと神話は語るパンは黴びゆく

渡せずに積み重なった君宛ての手紙の重さとして私だ

みんな地雷原をぬけた気でいる郵便局の自爆営業

戦争を愉しむ貌のないこども樹皮へつながるイヤホンは抜く（ 毎日新聞 ）