甲太郎歌帖

親と会う朝に白髪をぬいておく髭は伸ばしたままにするけど

魚の交差するまちで

履きたての靴下と靴みたいだねこんなに会話かみあわないと

星星は見えなくなった砂丘から砂丘の霊は消えてしまって

老桜の飛花よやわらぐ片頭痛

図書館の本は苺の蕊だろう触れられる日をただ待ちわびて

落花生

生協

国道の渋滞のさきゆっくりと帰省してゆくトリケラトプス

学校へ渡す感情調査票　名のない感情はくもくれんと書く

春風に終わる命の匂い混ぜ午前六時の北へゆく豚

アッシュールバニパル王も戦争を恐れていたと唄う海豚は

 配達は闇を怖れるポケットのなかのジッポは桐に鳳凰

児の看護休暇をとれば奥さんは何者なのか問う面談へ （ 徳島新聞 ）

いにしえの海岸線を辿ろうと川鵜の列はほぐされてゆく

雲ひとつなくきれいとか言うときの雲ってそんなにきたないのかな

くやしさに夕日の赤くにじむ帰路ハクキンカイロの火口は甘い

絵本から絵がなくなって本になるように幼なは子になってゆく

郵便のバイクに乗ってさざんかの紅濃き闇へつっこんでいた

天体の音楽